前の記事「フリーランスエンジニアの人的資本」では、フリーランスエンジニアの資産運用の文脈での人的資本とは何かをご説明し、その計算方法、そしてそれをアップさせる具体的な方策についてお話ししました。
今回は、フリーランスエンジニアが保有している「金融資本」とは何なのか、それはどこから来ているのか?そしてそれをどう増やしたらいいのか?をご説明したいと思います。
簡単に言うと、金融資本とは銀行預金や株などのことで、金融資産とも呼ばれます。ま、あたりまえなんですが(笑)、「これはどこから来ているのか、どうやれば増やすことが効率的にできるのか」を、「金融資本と人的資本との関連性を考察する」ことで、フリーランスエンジニアの人生戦略が明確になってくると思います。
結論をここで言うと、フリーランスエンジニアは、人的資本を増やせば、貯金額(金融資産)が増える、より高いリスクの株式投資へそれを投じることが可能になるので、ますます金融資産が増えますよ、というお話です。
目次
フリーランスエンジニアにとっての金融資本とは
これまでのお話しでは、フリーランスエンジニアの人的資本のことをご説明しました。まさに稼ぐ力を資産に例えた概念です。では、金融資本とはどのようなものなのでしょうか?
なんかそれって、単に金融資産のことなのかな?それなら俺は貯金100万円だよ
はい、正解です。
フリーランスエンジニアの金融資本とは、単に銀行口座や証券口座の資産残高のことなんですが、ここはフリーランスエンジニアの人的資本との絡みでお話しします。
人的資本とは、「1年目に稼ぐ報酬の現在価値 + 2年目に稼ぐ報酬の現在価値 + 3年目に稼ぐ報酬の現在価値 + ・・・ + 引退する最後の年に稼ぐ報酬の現在価値」のことですよね? 本来は、毎月一定の収入が銀行口座に振り込まれるのが普通ですが、ここでは単純化して、年1回まとめての支払い、と仮定しています。
さて、今日から起算して1年後に100万円支払われる契約でフリーランスエンジニアがあるプロジェクトに参画した、とします。1年後に100万円支払われるはず(消費税は無視しています)ですが、それは100%確実に支払われるとは限りませんよね?
契約している上位会社が倒産して経営者がバックれたり、エンドクライアントが倒産したり、滅多にないことですが、確率ゼロでもなさそうです。しかし、支払われる期日がだんだん近づいてくるにしたがって、「その支払日当日に自分の銀行口座に入金される確率」は上昇していき、その当日に入金を確認したら「100%確実に支払われる(支払われた)」となります。
ここで契約書通り報酬が支払われ、あなたの銀行預金が100万円増えました。要するに「あなたの人的資本が100万円分減少し、金融資本が100万円分だけ増えた」わけです。
うんうん、そういうことになるのかな?
はい、つまりあなたの保有している「人的資本と金融資本の合計額」は、この1年間に消費した生活コストの金額だけは減少するものの、それ以上は減りも増えもしていないわけです。ただ、人的資本が減少し、金融資本がその分だけ増加しました(生活コストを無視すれば、の議論をしています)。
つまり、フリーランスエンジニアにとっての金融資本とは、人的資本が実際のお金(リアルマネー、現金)として目に見える形で具象化したものだ、と言えます。
あのさー、概念はわかったけど、要は俺が働いて貯金がその分増えただけのことだよね? なんでそれ、小難しく言わなきゃいけないわけ?なんかイラっとするなー
はい、そうなんですが、まぁ、もう少しお付き合いくださいね。
今度はその二つの資本の時間変化のお話しです。
二つの資本の時間変化とリスク許容度
要するに人的資本は時間とともに、つまりフリーランスエンジニアが年を重ねるごとに普通は減少していきます。働いて得られる労働報酬ですから、引退を60歳と仮定して、毎年毎年残存する現役エンジニアとしての年数が減少するので当然人的資本も減っていくわけです。
つまり、「人的資本は若ければ若いほど大きい」のです。
なんか年収とか報酬って、経験を積めば積むほど単価はアップするのが普通だし、会社員でも年収のピークって50くらいみたいだし、その「人的資本は若い方がでかい」って意外な感覚だね
そうですね。確かに単年度の労働報酬は若手は安く、経験値が高いベテランの方が高くなりますが、人的資本は引退までの「労働報酬の累積(の現在価値)」なので、若手ほど大きいんですよ。
つまり俺より5歳年上の現場のリーダーよりも俺の方が金持ち、ってわけだね?
はい、そうですね(笑)
よし! いつもムカつくリーダーの前で、明日自慢して、マウント取ってやろ
それはやめた方がいいですよ。途中退場になったり、悪い噂がたって、次の案件がなかなか見つからなくなったりしたら、あなたの人的資本が減少しますから。
あっ、そうだ。不安定な稼働は割引率を上昇させちゃうからね
はい、良い子は人間関係にも気を使いましょう!
ではここで、人的資本の性質をまとめます:
>>「人的資本は若ければ若いほど大きい。そして毎年毎年減少していき、リタイヤするとゼロになる」
フリーランスエンジニアの金融資本のまとめはこうです:
>>「金融資本は、人的資本が源泉。毎年毎年人的資本が減少し、その分金融資本に変換し、預金が蓄積していく。つまり金融資本は毎年毎年増加していく(ここでは生活コスト等は無視しています)」
・人的資本は年々減少
・金融資本は年々増加
・リタイアしたとき人的資本はゼロ。金融資本は最大になる(資産運用でさらに増えることもあり得ます)
・リタイア生活は、この資産を取り崩し、死後に残った金融資本は「遺産」の形で次の世代と政府(相続税)に移転される
なるほど、なるほど。つまり「人的資本」も「金融資本」も、本来は同じ「労働報酬」から来ている「自分の持っている資産」だと考えると、一元的に取り扱えるよね?
はい、まさにその通りなんです。
若いうちは「金融資本」がとても小さいので、リスクの大きな株投資はできない、と思いがちですが、実は「人的資本」がとても大きいので、リスク耐性が年配者よりも高い傾向にあります。
つまり、『株や仮想通貨、FXで大損しても、また稼げばいいや』ということを大げさに小難しく言い換えればそうなんだね
はい、その通りです。年配者はもう稼ぐ時間が残り少ないので、リスクを取った投資ができないんですよ。
人的資本を利用して資産運用で儲ける方法とは
働いて得た労働報酬が銀行預金になれば、それを投資してますます俺の資産は増えるな
はい、その通りです。
では、何に投資すれば資産は増えるのでしょうか?
うーん、資産を増やすためにはハイリスクハイリターン、って言うから値動きが激しくて短期でボロ儲けできそうなビットコとかイーサなんかの仮想通貨とか、レバをめっちゃ掛けたFXとか、最近流行ってるミーム株*なんてどうかな?
*ミーム株(Meme stock)とはアメリカの掲示板Redditなどで取りあげられ、みんなで買い上げ短期で暴騰する米国のボロ株のこと。具体的にはゲームストップ、AMCエンターテイメントなどが著名)
はい、「リスクが高い投資ほどリターンは高い」は正解です。でも、仮想通貨とかFXとかミーム株はボラ(ボラティリティー = 価格変動)が高過ぎて(=リスクが大き過ぎる)、安定的な投資としては不適切だと思います。
たしかにそうだね。ビットコでもFXでも株でも、それで資産ほとんど失って「死ぬしかない」なんて話し聞くし。リスク管理が大切なんだよな。
はい、若いうちはまた稼げばいいので、死ぬ必要はありません。
でも、定期預金とか個人向け国債なんて、利回りほとんどゼロで、銀行の窓口まで定期作りに行く交通費とかの方が高くつきそうだな。
今後の記事で詳しくお話ししますが、「資産運用はアセットアロケーション(資産配分)で決まる」と言われているのをご存知でしょうか? 要は、金融資産の10%を占めるある株A銘柄が3倍になっても、資産全体は20%しか増えませんよね? (「資産100=90+A銘柄10」→「90+30=資産120」) 株価が3倍になる銘柄を探すのは死ぬほど大変ですが、その銘柄の比率が小さければ全体への影響は、儲かっても損しても大したことがないのです。
そして高いリスクを取る行為は資産が大幅に目減りするリスクも取っていることになります(詳細は後の記事でご説明します)。
確かにそれ凹むよね。でも、50万円の損失ならまた稼げばいいんじゃ?だって俺、稼働が安定していて毎月ちゃんと報酬が銀行に振り込まれるし
はい、その通りです。要するに、稼ぐ力に対する損失額が小さければ、また稼げばいいだけなんですよ。これを人的資本、金融資本の関係から見ると、「人的資本が大きければ、金融資本でリスクが取れる」ということです。
要は二つの資本の合計額で考えて、リスクの高い投資の資産比率が小さければ、金融投資で多少損してもどうってことない、また稼げばいいだけで、生活破綻しない、ってことです。
・保有する人的資本の額が大きい若いフリーランスエンジニアは、少ない金融資産の大半をリスクの高い株式に投資しても、全体の比率は小さい(金融資本と人的資本の合計を全体と考えると)ので、大きなリスクを取れる。
・人的資本が大きい若いフリーランスエンジニアほど、期待リターンが大きい株式の比率を大きくできる。
・反対に人的資本が小さくなってきた年配のフリーランスエンジニアほど、株式の比率を小さく、リスクの低い債券や定期預金の割合を増やす必要がある。
・リスクを増やせば増やすほどリターンは増える*。高いリスク耐性を得るには、人的資本を増やせばいい、つまり再教育とかトレーニング、資格取得などの自己投資が特に若いうちは有効。
*リスクを増やすと期待リターンも増えます。しかし高すぎるリスクはリターンを蝕む現象が知られています。リターンの確率分布が、左方向(マイナス方向)に歪み、期待リターンの最頻値、中央値が減少します。高すぎるリスクの金融商品への長期投資は、最終的に期待ほど儲からなかった、となりかねません。
まとめ
- 人的資本とは現在から引退まで稼ぐ労働収入を現在価値に割り戻した合計の金額。金融資本とは、その人的資本が毎年毎年実際のお金に具現化して銀行口座に蓄積した金融資産のこと。
- したがってフリーランスエンジニアが金融資産を増やすためには、人的資本を増やす必要がある。人的資本の構成要素は、1)案件単価、2)就労年数、3)割引率、の3つ。
- 人的資本を増やすためには、1)高い単価の案件に参画できるようにする、2)継続して長い期間働く、3)稼働の安定性を上げること、が効果的。
- 積み上がった金融資産を銀行預金に置いておいてもほとんど増えず、インフレでむしろ資産価値は目減りする。
- 資産運用で稼ぐためには、リスクの高い金融商品、具体的には株式へ投資する。
- そのリスクを軽減させるのは、人的資本の大きさ。若いフリーランスエンジニアほど、スキルを磨いて人的資本を大きくすることが資産運用におけるリスク管理の観点からも有効な戦略。
※本記事の内容は、資産運用のリターン・リスクについていかなる確約をするものでもありません。資産運用は自己の責任において行っていただきますようお願いいたします。